高齢者向け配食サービスで急成長、東証1部シルバーライフの強さの秘密、ビジネスモデルを徹底解剖

高齢者向け配食サービスで急成長、東証1部シルバーライフの強さの秘密、ビジネスモデルを徹底解剖 仕組み

近年、一人暮らし世帯や要介護の高齢者世帯には、自ら調理をすることや買い物に行くことが難しい等の理由で、手間をかけずに毎日の食事を用意したいというニーズが高まっている。

今後、75歳以上の後期高齢者が急激に増え、市場が拡大していくことが予測される中で、今回、高齢者様向けの配食サービスにおいて他社と一線を画す、東証1部上場のシルバーライフという会社を紐解いていく。

シルバーライフとは

株式会社シルバーライフは2007年に設立、売上高約88億、営業利益約9億、社員数260名程の会社である。同社は食材製造販売事業の単一セグメントであり、高齢者向け配食サービスのフランチャイズ本部の運営及びフランチャイズ加盟店等への調理済み食材の販売が主な事業である。

現在の代表である清水貴久氏は実は2代目の経営者だが、フランチャインズ事業の拡大に伴い、同社の創業者である戸井武司氏から経営権を引き継ぎ、事業を拡大させている。

2009年に同社に参画した清水氏だが、明治大学卒業後には警視庁に入庁、その後FC開発で有名なベンチャーリンクに入り、3年後の2002年に自身の会社を立ち上げたという異色の経歴だ。

同氏の参画後、4月には現在の主要事業である高齢者向け配食サービス「まごころ弁当」を、2014年2月には更に原材料にこだわった高齢者向け配食サービス「配食のふれ愛」を展開している。その後、創業から10年の2017年10月に東証マザーズに上場、2020年1月には東証1部に市場変更を果たしている。

直近の業績

直近の業績
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参照元:2021期7月期第1四半期決算説明資料

直近の業績は、2021年1Q(8月〜10月)の売上高は約24.5億(前年同期比+17.5%)、営業利益は約3.3億(前年同同期比+66.4%)となっている。また通期予想は、売上高は約95.3億(前期比+7.9%)、営業利益は約6.5億(前期比−30.4%)としている。

営業利益減少分に関しては、新工場稼働に伴う減価償却費などの関連費用(3.5億円)の発生により、売上総利益が減少したことによるものである。

販売区分別売上

販売区分別売上
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参照元:2021期7月期第1四半期決算説明資料

同社は食材製造販売事業の単一セグメントであるが、販売先に関しては大きく3つあり、ここではその3つの販売先についてそれぞれの売上高、売上比率を見ていく。

上の図の通り、高齢者向け配食サービス「まごころ弁当」「配食のふれ愛」のFC加盟店の2021年1Q(8月〜10月)売上高が約17.5億(前年同期比+15.2%)と全体の約71%を占め、同社の中心事業になっている。

その他、高齢者施設等への食材販売事業である「まごころ食材サービス」「こだわりシェフ」の2021年1Q(8月〜10月)売上高が約3億(前年同期比+1.5%)。冷凍弁当の自社販売及びOEM事業である「まごころケア食」の2021年1Q(8月〜10月)売上高が約4億(前年同期比+53.6%)と2つの事業で残り約30%を占めている。

FC店舗数推移

FC店舗数推移
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参照元:2021期7月期第1四半期決算説明資料

同社は現在直営店の運営は行っておらず、2009年から本格的に「まごころ弁当」の出店を進め、現在520店舗。また、2014年からは「配食のふれ愛」の出店も開始し、現在355店舗。

対前年度末比では「まごころ弁当」が24店舗、「配食のふれ愛」が17店舗それぞれ増加し、2020年10月末時点での累計店舗数は875店舗と堅調に推移している。

ビジネスモデルと具体的な事業内容

先ほど簡単に触れたように、同社には大きく以下3つの販売先があり、ここでは具体的に各販売先のビジネスモデルを見ていく。

ビジネスモデルと具体的な事業内容
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参照元:2021期7月期第1四半期決算説明資料

FC本部運営及びFC加盟店への食材販売事業

同事業では、全国に「まごころ弁当」「配食のふれ愛」の屋号でFC店舗を展開する新たな加盟店の開拓と、現在加盟しているFC加盟店への調理済み食材の販売を行う。原材料にこだわり、高齢者宅向けに味付けや栄養バランスに配慮した弁当を毎日、日替わりの献立で提供している。

「まごころ弁当」「配食のふれ愛」では提供する献立がそれぞれ異なることが違いとしてあり、配送可能地域であれば利用者の好みによってどちらかを選ぶことができる。事業の主たる売上としてはFC加盟店への食材販売と、ロイヤリティによって収益モデルを確立している。

FC本部運営及びFC加盟店への食材販売事業
https://buffett-code-archives.s3.amazonaws.com/edinet_archives/S100N131.pdf

参照元:2020年7月期有価証券報告書

FC加盟店の売上高(食数)の伸びに比例し、同事業の食材販売売上高も増加する仕組みのため、今後さらに市場が伸びていくことを想定すると継続的な収益が期待できる。(食材販売売上高には、高齢者施設等向け、OEM及び自社販売も含む)

実はこの収益モデル、コロナ禍においても高い利益率を維持したコメダ珈琲や2018年にマザーズ上場を果たしたラーメン業態の外食事業を展開するギフトと同じビジネスモデルである。

高齢者施設等への食材販売事業

同事業では「まごころ食材サービス」、「こだわりシェフ」のサービス名で高齢者施設等に対し、冷蔵食材を提供している。自社工場で製造した食材及び仕入先工場から仕入れた食材を、発注元の条例者施設などに近いFC加盟店に配送を委託している(各工場からの直送もあり)。そのため、FC加盟店に対しては食材配送委託料を支払っている。

食材は簡単かつ効率性を追求し、高齢者施設内におけるスタッフの手間や労働時間の削減や水道光熱費の軽減に着目した冷蔵食材サービスで、専門の管理栄養士の監修のもと毎食の栄養バランスも重視されている。

調理に関しても、そのまま開封するか湯煎等で温めるだけのため、スピーディーな配食準備を実現。また、スタッフ1人で2時間で最大100食ほど提供することも可能なため、人員が少ない施設に対してもサービス提供が可能である。

「こだわりシェフ」では、プロの料理人と管理栄養士の監修のもと、和洋中の様々なバリエーションを揃え、栄養バランスがとれた豪華なレストラン風料理を1人前から提供している。

冷凍弁当の自社販売及びOEM事業

同事業では「まごころケア食」のサービス名で高齢者宅向けに、クール宅急便で冷凍弁当を提供している。また、他の弁当配食事業者に対しOEMで販売される冷凍弁当を自社工場で製造し、卸販売を行っている。

より手軽に利用できることは勿論のこと、高齢者が食べる喜びを感じられるように色どりや満足感も重視し、「まごころ弁当」と同じく管理栄養士が献立の監修のもと、栄養バランス・原材料にこだわった弁当だ。

特徴と優位性

同社の特徴、優位性に関しては以下4つが挙げられるので、それぞれみていきたい

・短期間で拡大したFC店舗ネットワーク
・低価格かつ豊富なメニューの提供
・多品種ランダム生産ラインの体制
・製造から配達までの一気通貫体制

FCネットワーク

FCネットワーク
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参照元:2021期7月期第1四半期決算説明資料

先ほどご紹介した通り、2010年から本格的にFC加盟店を加速させ、2020年7月には「まごころ弁当」「配食のふれ愛」の合計で875店舗にまで拡大している。配食サービスでは国内トップの店舗数を有する同社だが、短期間でこれほどのFCネットワークを構築してきた背景には、それを可能にした同社の強みがある。

高齢者宅への配食を手がける同社では、来店型の店舗ではないため、店舗の立地を問わず、大型の厨房設備を必要としないため、FCオーナーが低コストで開業することが可能である。

また、調理済み食材を盛り付け、配送するだけのシンプルなオペレーションで、FC本部から高品質な調理済み食材を安定的に仕入れることができる点から、調理経験不要で、1人でも開業することが可能である。

このようにFCオーナーの開業に対する障壁を解消することで、短期間で店舗数を大幅に拡大し、個人宅の玄関先まで、ラストワンマイルを埋めるFCネットワークを構築している。

低価格かつ豊富なメニュー

低価格かつ豊富なメニュー
https://buffett-code-business-briefing-handouts.s3.amazonaws.com/9262-2021Q1-C3FE01D8C1.pdf

参照元:2021期7月期第1四半期決算説明資料

高齢者が食べることを考慮した柔らかさ、味付け、栄養バランスは前提とした上で、低価格で1,000以上の品目を用意し飽きを感じさせないメニュー作りをすることが顧客に評価されている。

また、実は同社の弁当は高齢者だけではなく、普段から健康が気になる方や少しカロリーが気になる方、体型が気になる方の利用も多い。日々忙しいビジネスパーソンや食事の用意を簡単に済ませたい方にとっては、手軽でかつ健康的な弁当が食べられるということで、コロナ禍では工場の生産が追いつかないほど注文が殺到したようだ。

高齢者以外も含めて多くの方がそれぞれの状況に応じて弁当を選ぶことができ、低価格で豊富なメニューを揃えることで、多くの方に求められる形を作り上げている。

多品種ランダム生産

多品種ランダム生産
https://buffett-code-business-briefing-handouts.s3.amazonaws.com/9262-2021Q1-C3FE01D8C1.pdf

参照元:2021期7月期第1四半期決算説明資料

前述の低価格かつ豊富なメニューを実現しているのは、同社の生産体制にある。配食は日常食で同じ商品群を毎日販売することができないことから、同社の商品は一般的な食品メーカーに見られる単一商品群のみを製造する専用ライン(図の左)ではなく、多品種ランダム生産ラインを持つ工場で製造される。

一方同社の配食サービスで求められる製造ラインは日常食のため、同じ商品群を毎日販売することはできず、今日の12食、明日の12食と全てバラバラが望ましい。同社の工場ではそれを可能にする多品種ランダムの生産体制が整っている。

一見すると非効率に見える多品種ランダム生産だが、同社は875店舗ものFCネットワークによるスケールメリットを活かし、品数が多いにも関わらず利益を生み出せるローコスト製造体制を確立している。

一気通貫体制

一気通貫体制
https://buffett-code-business-briefing-handouts.s3.amazonaws.com/9262-2021Q1-C3FE01D8C1.pdf

参照元:2021期7月期第1四半期決算説明資料

ここまで同社の特徴について3つ見てきたが、最大の優位性は製造から配達までを手掛ける一気通貫体制にある。通常の配食関連企業が製造、物流、販売などを分けている一方で、同社は製造からラストワンマイルの配送まで自社で一貫して行っている。

そうすることで、現場の声を活かした商品開発を強化することができ、大量生産によるコスト優位性、徹底した品質管理、加盟店への配送の効率化が可能になっている。

今後の成長戦略

同社のメインターゲットである75歳以上の後期高齢者は、2025年以降に団塊の世代が後期高齢者になることにより急増することが明らかになっている。同社は5ヵ年計画の中で、2025年7月期売上目標を140億円(2020年7月期88億円、成長率59.1%)、営業利益目標を16億円(2020年7月期9億円、成長率77.8%)としているが、そのための大きな取り組みとして、大規模な投資計画があるので内容を見ていこう。

まず、既存の第一工場の改修と第二工場の新規稼働である。第一工場では従来、冷蔵・冷凍製造をしていたが、2億円を投じて冷凍専門工場にするとともに、37億円を投じて1日当たり最大15万食の製造が可能な冷蔵専門の第二工場を新規稼働させることで、製造料の増加、生産性の向上を計画している。

次に、冷凍商品の需要が伸びていることから9億円を投じて冷凍倉庫を新規稼働させ、外部倉庫費用を削減し倉庫を集約することで、保管・ピッキング体制の効率化を図る計画である。

そして、生産管理システムに2.5億円投じて各システムの統合や連携を図ることで、2025年までに今後の需要の伸びに応えるだけの土台づくりをする計画である

総括

今回は、今後ますます需要が高まることが期待される高齢者向けの配食サービスを展開するシルバーライフを見てきたが、同社の圧倒的な商品力と価格競争力に驚かされた。

約1,000品の惣菜から毎日12品を選び製造するフレキシブル生産体制や、需要が伸びている冷凍商品においては他社に比べ価格が1割ほど安いながらも2倍の利益率を実現する収益モデルを既に確立しており、今後の設備投資により更なる成長に期待したい。

同社が設立した2007年の同時期にはワタミ、モンテローザ、ベネッセ等の大手企業も参入しており、競争が激化することが予想される中で、彼らに対して今後どのような差別化戦略を打ち出し業界の地位を維持するのか、同社の動向に注目したい。

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